6-17 竹林七道の順序について
私は以前に竹林流の射法七道の順序について、懸橋の巻6-3に「引き分けを返して打ち起こす」という文章を書きましたが、尾州竹林流の星野勘左衛門(魚住先生は星野系)の注釈はまったく異なっておりますので、こちらの解釈に改めたいと思います。
竹林七道の順序については伝書「四巻の書」によれば、
1. 足踏み
2. 弓構え
3. 胴造り
4. 引っ取り(ひっとり)
5. 打ち起し
6. 会
7. 離れ(残身を含む)
の順序になっていますが、現代の射法八節は
1. 足踏み
2. 胴造り
3. 弓構え
4. 打ち起し
5. 引き分け
6. 会
7. 離れ
8. 残身
であり、引っ取り(ひっとり)、打ち起しの順序が異なっています。しかし、竹林流でも実際の射法の順序は基本的には現代の射法八節と変わらないので、矛盾しています。
以前に書いたものは、紀州竹林流(と思われる)の伝書(本書)に、ある人が吉見順正(紀州竹林の祖)に「射法の順序は打ち起してから引き分けるのに、順序が逆になっているのは、誰かが伝書の頁を間違って写し伝えたのではなかろうか」と問うたところ「書き間違いではなくて、先に引き分けの気持ちを持って打ち起しを行うのが肝心である」と解説しているのを読んで、説得力のある面白さと「無理が通れば道理が引っ込む」強弁さと、さらに日本語の反語的解釈の難しさを書きました。
星野勘左衛門の伝書では以下のようになります。
1. 竹林の「弓構え」は現代の「弓構え」とは全く別のものであり、「的割り」とも云われる。これは「矢番え」をした後、弓手を膝頭の上のまま的に向かって回転させ、弓と弦と矢で的を割り、馬手は右乳の上を横に開いて、会の形を作り、両肩の線を合わせて目当てを定めることを云う。
2. 次に胴造りであるが、これは現代と同じく足踏みの上に三重十文字を重ねる。
3. 「引き取り」を紀州竹林では「引き分け」と解釈したため順序が違うという議論となったが、星野勘左衛門の註釈では、「引っ取り」とは「弓懐」のことであり、目当てもの(的)を懐に引き取ると表現している。正面打ち起しでは円相の構えに相当するが、竹林では「剛の弓懐」といい羽引きのまま左斜面に弓懐をとる。
以上の解釈であれば、射法の順序は狂っていないことになり素直に理解できます。紀州竹林流の伝書は言葉の解釈が異なったのです。「弓構え」、「的割り」、「弓懐」、「引き取り」と「引き分け」は言葉が紛らわしいですが、別のものであると理解しなければいけません。
櫻井 孝 | 2004/11/27 土 00:00 | comments (2)
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コメント
現代射法では、行射するとき的は3回しか見てはいけないと云われます。
しかし、戦場での場合には、脇正面に構えたまま悠然としてはいられないので、脇正面に並んだまま、弓を的正面に回して、敵からの矢を見極めつつ構え、自分の行射の準備を整えていました。これが歩射の弓構えです。
このため、弓を的方向に回し、的割りを行ったのは合理的であると思います。
雪荷派(三河系)の伝書でも竹林派と同じ場所に「弓構え」が置かれています。印西は形は残しているが胴作りの一部と見なし、名前はないそうです。
現在は取り掛後を「弓構え」と呼ぶので、適切な用語に不自由していました。しかし、あちこちの神社等の弓行事を見て回ったところ、取り掛けの前に弓を的側に振り向ける場面をたくさん見ました。この構えで胴の据わり(竹林の大日の曲尺)を確認できるので、個人的にはなくしたくないのですが、連盟系の射会では遠慮せざるを得ないようです。
星野勘左衛門さんは、「引っ取り」とは、目当てもの(的)を懐に引き取ると表現していたのですか。味わい深い表現ですね